1 | 医局のできごと | 8 | ハインリッヒの法則 |
2 | 一夜のできごと | 9 | 認知症(アルツハイマー) |
3 | やさしい人 | 10 | ちょっと待って奥さん |
4 | 父のこと−(糖尿病になったっちゃぁ〜) | 11 | 親父 切れる |
5 | 差別してる | 12 | 日本の家庭がおかしい |
6 | テレビって | 13 | 非常識な人達(先生と呼ばれる人読まないで) |
7 | 彼も一生懸命 |
「彼も一生懸命」
〜人間は川にある石と同じ〜
一人の女性が怒っている。
診察室に入ってきた彼女の顔はこわばっている。
私のところに来る前に、若い医師にみてもらったようだ。
若い医師は、とても真面目な性格で、私は、彼を患者想いの良いドクターだと思っていた。
トラブルだ! 私の頭のなかでは、グルグルと想いが巡る。
『なにを彼女は怒っているのか?』 『どうすれば、いいんだろう。』
彼女の言い分は、若い彼が自分の考えを押し付けて、一方的に話をした。
彼女の希望を聞いてくれない。その態度が気に入らない、とのこと。
こんな時は、十分に話をきくことが大切。わたしが彼の味方をすれば、話が大きくなる。
彼女の話が一段落したあと、自分の考えを話した。
検査の必要性。彼女の症状についての私の考え。
専門用語を使わずに、ゆっくりと、穏やかに。
最後に彼女は、穏やかな顔で、『結局は、話し方ですね。』と納得したようだ。
まだ、彼は若いから、角があるともいった。私には角がない?!
若い頃の自分は、時には患者と言い合いをすることもあった。
しかし、今は、まずない。多分、歳をとると、川にある石のように、
ころがりながら、角がとれていくのだろう。
医者はサービス業である。話も上手くなければならない。
しかし、あなたならどちらのドクターが良い?
『話が下手で腕の良いドクター』と 『腕はそこそこで話が上手なドクター』。
もしかしたら、後者が求められているのかも。
『話が上手で腕が良いドクター』の数は少ない。
「ハインリッヒの法則」
〜安全が続いているときこそ最も危険〜
史上最悪となったJR福知山線の脱線事故。
なぜ、こんな悲惨な事故が起こったのか。
鉄道は安全で便利な乗り物として、私もよく利用している。
今回の事故はその安全性を根底から揺るがす重大事故であった。
『ハインリッヒの法則』というものがある。
1つの重大事故の発生の陰には、中程度の事故が29件、
さらに小さい事故が300件も起きているというものだ。
私が勤めている職場も、安全性については厳しい職場だ。
事故=死亡に直結している。今回のJRの事故は他人事には思えない。
クスリの飲む時間の間違い。
採血や点滴の失敗。(←これはミスとはいえないかも知れないが)
食事の配膳間違い。小さなミスはたくさんあるだろう。
人がすることには、ミスは起こるといえばそれまでだが、
ミスを起こした時にどのように対処するかも問題だ。
よく会社では、ミスをおこすと処罰の対象となる。
処罰(特に減給)がいやで、ミスを犯したものが、それを隠す傾向がある。
会社ぐるみで隠すところもある。
ミスは犯さないほうが良いに決まっているが、もしも、起こした場合には、
それを正直に報告できる職場環境が必要になると考える。
そのうえで、ミスを起こさないように皆で考えていかなければ。
「認知症(アルツハイマー)」
〜一番好きな人に辛くあたる〜
上品そうな老婦人が娘に連れられて診察室に入ってきた。
椅子にすわるとすぐに、娘さんの悪口をいう。後ろで娘さんが聞いているのに・・・
いかに、この娘が自分にむごい仕打ちをするか。ご飯のこと、掃除のこと、洗濯のこと・・
顔を上げてみると、娘さんが困ったような、哀しそうな顔をして、
老婦人を見ている。ぐっと握りしめた手。
話を聞いて、診察をして、老婦人は診察室から出て行った。
『先生はとてもやさしい。この子も見習ってくれればいいのに。』
今から、リハビリに行くという。ニコニコしている。
娘さんに耳打ちをする。リハビリに行ってお母さんを預けたら、内科外来まで戻ってくるように。
しばらくして、娘がもどってきた。『先生、わたしはとても辛い。
一生懸命に母のことを考えてやっているのに。母は、わたしにだけきついことをいうの。
兄の嫁には全然いわないのに・・・』
アルツハイマーなど痴ほう症の人は、心を許した人にしか、
自分の怒りの表現を見せないという。
あの老婦人は、娘さんにだけに、心を許しているのだろう。
多分、娘さんを頼りに今まで生きてきたのだろう。
娘さんにそのことを伝えた。少し、ほっとしたような顔をしたが、『でも、先生、やっぱり辛いよ。』
認知症(アルツハイマー)の人は、否定されたり、非難されたりすることを、非常に嫌う。
自分のなかでは、自分は正しいことをしているのだから。
だから、彼女(彼)のいうことを認めてあげることが大切。
そして、ああしなさい、こうしなさい、というのではなくて、
どうしようか、こうしようかと意見を求めていくことが、うまい関係を作るきっかけになることがある。
娘さんに、私なりのアドバイスをしたが、さて、どうなることか。うまくいけば良いが。
「ちょっと待って奥さん 」
外来での出来事。70歳の男性が糖尿病が悪化したと紹介になってきた。
男性の奥さんは、もともと私の患者さん。奥さんも糖尿病にかかっている。
『この人、食べるなっていっても、食べるんです。
勝手にクスリをたくさん飲んで、足らなくなるし、余っているクスリもあるんです。
お酒も勝手に買いにいって飲んでいるんです。昼ご飯を食べたのに、まだ、食べてないというし・・・
私が注意すると、自分はきちんとしているというんです。
反省を全然していないし、血糖はどんどん上がるし、私、恥ずかしくて、情けなくて・・・。』
彼は、情けないような、困ったような顔をして、ぐっと手を握りしめている。
『この人、呆けているんです。私は一生懸命なのに、本当に情けない。』
奥さんの口撃はまだまだ続く。
わたしは、手で奥さんを制した。
そして、医療秘書に旦那さんを外に出すように告げた。
奥さんに向かって、痴呆症がどんなものなのか。懇切丁寧に説明した。
彼の状態はまだら痴呆の状態と考えられて、まだ、正常なときもあること。
正常なときは、自分の呆けた状態がよくわかっているだろうこと。
奥さんが、彼を責めると、彼はとても辛くなること。
彼は、常に自分にとって正しいことを多分しているだろうこと。痴呆症は注意しても直らないこと。
奥さんは、ふーっとため息をついて。
『やっぱりそうですか。そうじゃないかと思ってました。
でも、きちんとした人でしたから、どうしても、きちんとした人であって欲しいと思って、
思わず言ってしまします。彼を傷つけていたのですね。』
これから、この夫婦はどうなるかわからないが、わたしにもこんな日がくるのだろう
「親父切れる」
昨夜は患者さんが重症でほとんど眠れなかった。
寝不足の時のわたしはとても機嫌が悪い。
少しのことでもきれてしまう。今日の被害者は長男・・・・。
夕食後のひととき。長女(高2)と長男(小6)がケンカをしていた。たあいのないことが原因。
黙って聞いていると、段々とエスカレートしていく。長男が長女に言った言葉でわたしはきれた。
『ちびのくせに・・・』
長女は身長が148cmしかない。そのことをとても気にしている。
親父的には可愛くていいと思っているのだが・・・。
長男を別室につれていき、本気で説教をした。次女が不安そうに覗き込む。
身体が小さいとか、不細工だとか容姿のことで、非難することはしてはいけない。
自分(長男はアトピーがある)がハダのことで汚いと言われたとき、
お前は泣きながら悔しがったのではないか。
長男は、でもお姉ちゃんが最近自分にやさしくないと訴える。
それは、お前がお姉ちゃんにやさしくないからだ。人は自分を映す鏡みたいなもの。
やさしくしていれば、やさしくしてくれるようになる。
それと、男は女の子(人)にやさしくしなければいけない。それが男として大切なこと。
(これは以前から長男に言いつづけていたこと。)
長男はやっぱり男らしくなってほしい
「日本の家庭がおかしい 」
立て続けに悲惨な事件が起きた。
両親を殺害した少年。兄を殺害した少年。
ちょっと日本がおかしくなっている。
人の死に対して、無頓着になってきているのではないか、との意見もある。
やれ、テレビ番組が悪いとか、ゲームが悪い、マンガが・・・。
一番おかしくなっているのは、家庭だと思う。
特に親父!!母親にバカにされ、子供にバカにされても、ヘラヘラしている親父が多すぎる。
(わたしもその一員かもしれないが・・・)逆にえらそうにしているだけの親父も多い。
仕事にかまけて、家庭を顧みない時期がわたしにもあった。
忙しいからという理由をつけて、家庭のことに眼をつぶっていた。
8年前、いまの職場に変わる際に、このままでは、いけないと思うようになった。
短い時間でも、自分なりに子供をよく観察する。
そして、自分なりのアプローチをかけるようにして、
やっと最近、こどもとの関係がスムーズにいくようになってきた。
こどもは親をよく見ている。こどもを一人の人間として認めてやった上で、
こちらが本気でぶつかると、必ず答えてくれると思う。考え方が甘いかもしれないが。
これからも、本気で・・・・。
「非常識な人たち」(先生と呼ばれる人は読まないで下さい) 〜
学歴社会の日本。学力偏重主義が大きな歪みをうんでいると思う。
わたしの周りには、勉強をした人間がたくさんいる。
しかし、勉強が出来る人間、すなわち、先生と呼ばれる人たちの人間性には疑問を思う。
わたし自身、医者になるのに一生懸命に勉強をした。
医者になるために、いろんなことを捨ててきたように思う。
捨ててきな中に、大切なものもあったのではないだろうか。
わたしの周りには、先生と呼ばれる人がたくさんいる。
周囲の人からはちやほやされているが、人間性がすばらしい人は、ほとんどいない。
そんな人間が医者になっているのが現実であるように思えて仕方がない。
浪人して、苦労して医者になった人。学生時代に遊んで医者になった人。
そんな人の方が、人間的にすばらしいものを持っているように思える。
医者の腕は大切であるが、人間性はどうでもいいのか?
極端な話かもしれないが、警察官にも非常識な人がいるだろう。
そんな人でも、警察官になると武器(拳銃)を持つことができるようになっている。
医者だって同じ。人間的に問題のある人でも医者として医療を行うことができる。
試験にさえ合格すれば。今の日本の状態はおかしいと思う。
人間らしい人、だんだんと少なくなっているような。このままでいいのだろうか?